One-sided love





どうすればいいのだろうか。なんと俺は今「初恋」というものをしているのだ。


どうすればいいのだろうか…。


しかも相手は、俺よりも頭一つ分以上も小さいあの生意気なルーキーだ。
あいつがそばにいると突然心臓が騒ぎ出す。
そんなときはこのポーカーフェイスが本当にありがたい。だが、事態は決して解決はしていない。一体どうしたものか。




「手塚」

背後から声をかけられた 振り返るとそこには不二がいた。いつものあのニコニコ笑いを唇に浮かべながら。なんだか嫌な予感がする。

「ねぇ、最近君はよく越前くんのこと見てるよね?」

嫌な予感、的中。

「…そんなことはないが」

いつもよりも微妙に低い声でそう言って少し睨んでやると、不二はひるむどころかさらに笑みを深くして言った。

「あるから言ってるんだよ。無表情で仏教面で愛想なしの代表格みたいな君が、越前くんのことを見てる時だけすっごく優しい顔してるんだよ」

そう、なのか?思わず、自分の顔を触ってみてしまった。それにしても、さらっとひどいことを言うやつだ。

「ふふ…君は自分のことには疎いからね。僕から見たらばればれなのに」
「そんなに…分かりやすいか?」
「うん、2人ともね」

そうか…気をつけなければ…って2人?

「2人とは、どういうことだ?」
「ふふふ…それは秘密だよ。言ったらつまらないじゃないか」

そういう問題なのか?

「不二―!ちょっと打ち合おうよー」
「あ・英二が呼んでるから僕もう行くね」
「あ、おい…」
「それじゃ、後は1人でよく考えてみてね〜」

ひらひらと手を振りながら、菊丸のほうへ近づいていく。が、途中で何かを思い出したかのように立ち止まって、顔だけ振り返った。

「そうだ、手塚にひとつアドバイス」
「…なんだ?」
「越前くんには、積極的にアタックしないと想いは伝わらないと思うよ。あと、彼をよく観察してごらん」

そんなことを言われても…。

それだけ言うと、今度こそ不二は菊丸の元へと行ってしまった。

確かに俺はよく彼のほうを見ている。自覚はしている。だが、ふとした瞬間に目が勝手に彼の姿を追ってしまうのだ。背が低くて小さいのに、いつも、すぐに彼がどこにいるのか分かってしまう。
彼には他のものにはないような存在感がある。だが、それだけではないというのはいやというほど分かっていた。


彼が、誰かと話しているのを見るのがひどく嫌だ。
彼が、誰かに笑いかけているのを見るのがとても嫌だ。

この気持ちを、独占欲と呼ぶのだろうか?


部長として、1人の部員にばかりかまうのはよくないからといって、いつも彼にはあまりかかわらないようにしている。


彼にかかわるすべてのものに嫉妬する自分を見るのが嫌だったから。
彼を俺の一方的な独占欲で縛り付けてしまうのが嫌だったから。


だから、なるべくかかわらないようにしていたというのに。
なのに、気がつけば彼を1年だということにもかかわらずランキング戦に出したり、彼と2人で試合をしたり。
無意識のうちにやってしまっている。いや、無意識というのは正しくない。ちゃんと分かってやっているのだ。ただし、それは“青学テニス部部長”としての俺ではなく“手塚国光”という立場での気持ちのほうが強い。

これでは、ただの職権乱用だ。

そんなことを考えていたら、また目で越前のことを追っていたらしい。どうやら、一緒に打つ相手がいないらしい。

積極的にアタック…か。

先程不二が言っていた言葉を心の中で反駁してみた。確かに、何もしなければ、変わりようはないな。良くも悪くも。


「越前」

声を、かけてみた。
呼ばれた越前が、振り返って俺を見上げてくる。結構身長差があるために越前は、自然と上目遣いになるようだ。俺も、首を傾けて見下ろすことになる。

「なんスか?部長」



「相手がいないんだったら一緒に打たないか?」



越前が、驚いたような顔をした。確かに、俺から誘うのは珍しい。

…不審がられて断られないだろうか。

俺は、柄にもなく緊張していた。だが、そんな心配は杞憂に過ぎなかったらしく、

「…いいっスよ」

少し俺の顔を見た後に、帽子を目深にかぶりなおして越前が言った。

「じゃあ、Dコートへ行こう」

断られなかったという安心のためか、次の言葉は、自然に口から出た。

「うぃーっス」

越前が、答えてラケットをつかむと、俺と並んで歩き出す。
越前がきつくないように歩幅に気をつけながらゆっくりと歩く。

「        」

越前が、何かつぶやいたが、聞き取れなかった。気になって聞いてみる。

「ん?何か言ったか?」
「なんでもないっす」
「?そうか…」

コートまでのわずかな距離を、2人で並んで歩いた。
視線を感じてそちらを見てみると、満足そうに笑う不二と目が合った。どうやら、一部始終を見ていたらしい。
ちらりと横を見ると、不敵な笑みと目が合った。



とりあえず、今は恋愛よりもテニスのほうに集中しよう――







「片思い」の手塚視点でした。手塚視点、初めて書きましたけど書きにくいです!でも、青学の中では一番の好きキャラなのでいつか、かっこいい部長をビシーっと書けるようになりたいです。これでも精一杯かっこよく…と思いながら書いたんですけどね(苦笑)。
今回は不二先輩が出張ってます。正直なところ不二よりも菊丸のほうが好きなんですけど、この役には不二のほうが適任かな、と思って出演してもらいました。なんか、微妙な終わり方でスミマセン。



                                 
BACK